|TOP|
教え 目次
前ページ
少欲知足

 『知覧特別攻撃隊』(村永薫編)を御紹介します。これは、特別攻撃隊(いわゆる「特攻隊」)の隊員が書いた遺書を、まとめた書籍です。そのうちの一通を御紹介致します。
――――――
遺言
 驕敵今や本土に迫るの時之を撃滅せんが為出発するの朝御両親様を始とし家郷の皆様に一筆申し上げます。
 海より深く山よりも高き御恩により、幸福な一生を送ることができましたことを深く感謝致して居ります。
 今斯うして出発して行きますのはその御恩返しであります。日本人として之こそ最上の御恩返しと信じて居ります。
 私の一生はほんとに幸福であったとつくづく感じられます。特に昭和十四年五月二十二日畏くも宮城前にて学徒に御親閲を賜り代表としてその栄に浴しましたことは、忘れるとも忘れ得ぬ感激であります。今も脳裏にあの時の感激が刻まれて居ります。
 その他一つ一つを挙げる迄もなく、唯誰よりも幸福であったと考えるとき、唯感謝あるのみであります。今は唯思い残すこともありません。親切にして下さった方々に一一挨拶もできませんが、必ずや立派な死に方をして行くつもりであります。
 御両親様、決して人前では泣いて下さいますな。
 今から出発致します。
平一
御両親様
家内御一同様

今西修(少尉 誠第三二飛行隊 昭和20年3月27日出撃戦死19歳)
――――――
 日本人の純粋な気持ちがここに表れているのではないでしょうか。この精神構造を今の人たちがなくしてしまったから、こういう世の中になってしまったと思います。

 中越沖地震から一年三ヶ月が経ちました。大きな被害を出した災害ではありますが、私たちは、ここから何を感じなければならないでしょうか。
 それは、自然への畏れ、「生かさせてもらっている」という気持ちに他なりません。
 佛教では、人間は自然の一員と教えます。虫も植物も自然の一員として大切にしてきました。昔は木を切る前にお酒をかけお祓いしてから切ったものです。今は、「木は木だ」と勝手に切ってしまいます。感謝の気持ち、「生かされている」という気持ち、「自然の一員である」という気持ち…がなくなっているのです。ぜひとも、思い出して頂きたい。

 自然で言えば地球温暖化、経済で言えば金融不安など、安閑としていられない世の中です。円高が進むと輸出業者は莫大な損失を被ります。
地球が危ない、
経済が危ない、
人間が危ない
のです。
 本当は私も楽しい話しや笑える話しがしたいのですが、そうできません。…だから、私の話は「暗い」と陰で言われるわけですが…(笑)。今日は時間も少ないので本題に戻ります(笑)。

 地球温暖化によって…、
・梅雨の時期が長くなり、それが定着する
・いままで日本では症例のなかった熱帯病が上陸する
・海水位上昇に伴い、サンゴで出来た島では真水が得られなくなる
・気温上昇に伴い、コシヒカリの味が落ちる。このままでは北海道で作るコシヒカリがおいしくなる
と言われています。
 特に、お米については、地元の米作農家の方に聞いた話ですので、信憑性は高いです。これらのことに、あまり実感はないでしょう。しかし、少しずつですが確実に影響がでるのです。

 その対策として二酸化炭素の削減が挙げられます。とは言え、なかなか実行できないのが現実です。まさか、息を止めるわけには行きませんし…。一人一人が真剣に考えなければならない時が来ているのです。

 では、どうすればいいのか。その心構えが法華経に書かれています。『普賢菩薩勧発品(ふげんぼさつかんぼっぽん)第二十八』という法華経最終章です。そこに、「少欲知足」とあります。これは「欲少なくして足るを知る」、即ち「欲望を抑えることで、満足を得る」ということです。これしかありません。

 我々は、つい あれこれと色々な物を買ってしまいます。「○○が手に入ったら△△。その次は□□…」と際限がありません。それではダメで、本当に必要なものだけを手に入れ、満足すべきなのです。
 「買うこと自体で欲望を満たし、買った物は脇に置いておく。また、次のものが欲しくなる」ではダメです。くり返して言いますが、「欲少なくして足るを知る」です。

 ではそれを実行するにはどうしたらよいか。「自分は優しい人(人間、日本人)である」と自覚することです。

 明治23年、紀伊半島沖で難破したトルコ船舶の乗組員を、地元の人々は懸命に助けました。これこそ、日本人の本質なのです。

 実は、これには後日談があります。
 イラン・イラク戦争の時です。1985年のある日、イラクは、イラン上空を飛ぶ飛行機を無差別に攻撃すると発表します。その実行は発表の48時間後。当然、イラン国内に住む外国人は脱出を試みます。ところが、当時の日本は救援機を向かわせることが出来ませんでした。他国は、それぞれ自国民を脱出させるのに精一杯で、日本人のことまで面倒見てくれません。
 ところが一国だけ、わざわざ日本人のために脱出機を用意してくれた国がありました。そう、トルコです。彼国は、明治23年の出来事を忘れずにいてくれたのです。今の日本人が忘れてしまった「恩義」をトルコの人々が持っていたのです。

 「恩義」を忘れずに、「少欲知足」であること。そして、これを弘めること。これがまさに、日蓮聖人の仰る「汝早く信仰の寸心を改めて、速かに実乗の一善に帰せよ。」の実現なのです。

 「『南無妙法蓮華経』と唱えているけど、何も変わらない」と仰る方がいます。変わっている御自身に気づいていないと言うこともありますが、ただ、お唱えするだけでなく、行動にも移して頂きたい。お題目を唱えるということは、足るを知ること、理解して実践することを決意表明することなのです。これこそが信仰です。

 以前にもお話し申し上げました。「花を見て喜ぶよりも、花を咲かせて人を喜ばせたい」。これです。相手に対する思いやり。みんながそう思えば、世の中は変わります。

 人は、心からお礼を言われることが一番心に響くように出来ています。そこに気づけば、心安らかに暮らせるのです。

 早く終わると申し上げましたから、約束通り早く終わりますが、
・少欲知足
・花を咲かせる人になる
どうか、この二つのことを、今日はお持ち帰り下さい。
平成20(2008)年お会式法話より

次ページ
教え 目次
|TOP|